Linux Conference 2001 プログラム詳細 (カンファレンス)

Linux Conference 2001 のコンファレンスセッションは 9 月 27, 28 日の両日に開催されます。

プラットフォーム: 国際化・多言語化

Linux 用の日本語入力環境 Heke とその周辺
田畑 悠介
現在 Linux 上で使用されている日本語入力システムのうち、フリーなものは 1990 年前後に国産の Unix ワークステーションのために作成されたものをそのまま使用しており、その開発は 1990 年代後半においてはほぼ停止した状態である。
それに対し Linux 自体は性能や使用されている技術も向上し、アプリケーションにおいてもオープンソースでブラウザの mozilla やオフィススィーツの OpenOffice、デスクトップ環境の Gnome や KDE などといったすばらしいソフトウェアが登場しつつあり、多方面から注目を集めている昨今においてこのギャップは憂慮すべき状態である。
また、既存の日本語入力システムは性能の問題のほかに、セキュリティなどが現在ほど重視されていない時代に設計されたためセキュリティやプライバシーの面で重要な問題を数多くかかえている。本論文ではこの問題と解決策について考察する。
最後に、セキュリティやプライバシーの問題、及びフリーできちんとメンテナンスされている日本語入力システムの不在といった問題に対処すべく仮名漢字変換エンジンやグラフィカルな IME などの作成を行っている Project Heke についてその経過と技術的な特徴について述べる。
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Kondara MNU/Linux における UTF-8 対応の現状
市村元信
Kondara Project において、今後、Kondara MNU/Linux は UTF-8 に移行するという旨のアナウンスとしたのは 2000 年 5 月 10 日の事であった。それから一年以上が過ぎようとしているが、現状、UTF-8 への対応はどの程度進んでいるのだろうか。本稿では Kondara MNU/Linux における UTF-8 対応の現状と今後について紹介する。
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マルチバイトキャラクタを扱う決定性有限状態オートマトンの構成法
長谷川 勇
非決定性有限状態オートマトン (以下 NFA) から決定性有限状態オートマトン (以下 DFA) を構成するアルゴリズムは、ASCII など小さな入力文字集合を想定しており、マルチバイトキャラクタに応用するには、文字集合の大きさと文字の可変長が問題となる。本論文では、NFA の遷移先集合のべき集合から DFA の状態を構成し、動的に状態遷移を行うことで、エンコーディングの種類に依存せずマルチバイトキャラクタに対応可能な構成法を提案する。
Keyword (s): 正規表現、マルチバイトキャラクタ、国際化
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プラットフォーム: Ruby

オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby への世代別ごみ集め実装手法の改良とその評価
木山 まさと

研究の背景
 処理速度が遅い
 しかし
 オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby の特徴
  開発サイクルが早い
  柔軟なソフトウェア開発が可能
  生産性・保守性が高い
 Web アプリケーションなどの
 規模の大きなプログラムに使用されはじめている
  Ruby の高速化
 そこで Garbage  Collection (GC) の高速化に着目
 結論と今後の展望
  結論
   旧手法の問題点を解決した
   無駄なマーキングを減少させるため、タイプ別ルート選択を提案し、Ruby に実装した
   新手法は、オリジナルに比べて、GC 処理時間が最大 88.7%、
  プログラムの実行時間が最大 39.3%短縮した 
 今後の展望
  古い世代のごみを減少
  古い世代の GC 処理時間を短縮
 新手法は、http://ruri.csys.ce.hiroshima-cu.ac.jp/~masato/ 
 で現在パッチとして公開しており、
 次期バージョンの Ruby で実装される予定
	 
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Ruby の VM 化に向けて
佐原 大輔
Ruby を仮想マシン化することによって得られる効果と、仮想マシンの構造について述べる。
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Ruby の心理学
まつもとゆきひろ

なぜプログラマは Ruby を使うと気持ちがよいのか、なぜ人は Ruby に惹かれるのか、その謎について考察を試みる

プラットフォーム: ネットワーク

ロングファットネットワーク上での高速データ転送
佐藤 博之
近年の高エネルギー物理学実験は大型化が進み、その参画者が拡大し世界中に分散する一方で取得データ量が極めて膨大なものになりつつある。例えば 2005 年に CERN にて開始予定の LHC/ATLAS 実験においては 34 ヶ国の 1800 人がコラボレーターとなり取得データ量は年間 1 ぺタバイトにも達する予定である。ゆえに世界各地の共同研究者へこれらのデータ配布を迅速かつ効率的に行うことは、LHC での物理解析を成功へと導くための重要な要素の一つであり、そのために国際線ネットワーク (WAN) を利用することが考えられている。
その一方で国際線 WAN の帯域幅は年々拡大を遂げ秒間あたりギガビットにも達しようとしているが、ネットワークの遅延時間は従来のままで移行していくものと考えられる (例えば KEK と CERN 間ではおおよそ 300 ミリ秒である)。このような高遅延広帯域ネットワークはロングファットネットワーク (Long FatNetwork) と呼ばれ、遅延帯域幅積は数十メガバイトにも達する。この論文では LFN 上でのデータ転送を効率的に実行するための研究を行った。
この研究のために帯域幅/遅延時間/パケット損失をシミュレートできるルータを PC-UNIX にて設定し、その両端に PC クラスターを構築した。これによって LFN 上のさまざまな条件下でのデータ転送のパフォーマンスやネットワークカーネルの詳細な挙動を測定することができ、現状での問題点が明らかになった。またこれらの PC クラスター間でさまざまな転送方法を試み、効率的なデータ転送方法についての考察を行った。
[プレゼンテーション(PowerPoint)]

電子メールクライアント Sylpheed の内部構造
山本博之
Sylpheed は GTK+ ベースの電子メールクライアントであり、 軽快、高速、高機能、 そして優れたユーザインタフェースを目標にして開発されている。
Sylpheed の開発における哲学とも呼べるものは「美しさ」である。 ここでいう美しさとは、単なる外観にとどまらず、設計あるいは実装の美しさといったあらゆることを含む。
本論文ではこれまであまりドキュメントとして公開されることのなかった Sylpheed の内部構造について詳細に解説する。 また、Sylpheed の開発を通して明らかになったオープンソースによる開発の利点についても触れる。
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オープンソースで作るPPPoEサーバの性能評価
桝田秀夫
PPPoE (PPP over Ethernet, RFC2516) は、PPP 接続に関して、 シリアルのような低速なデバイスではなく、比較的高速で安価な Ethernetをデバイスとして利用する通信方式であり、Flet's ADSL などで利用されていることもあり、PPPoE クライアントに関しては 安価なハードウェアやフリーな実装が多く出回っている。 しかし、PPPoE のサーバ側に関しては、非常に高価な専用ハードウェアが ほとんどである。 筆者らは、PPPoE を情報コンセントの実装に使う方法を考えており、 それを出来るだけ安価に実現する方策を模索していた。 そこで、オープンソースなOSと安価なPCの組合せでどこまで性能が出 るのかを測定した結果を報告する。
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プラットフォーム: カーネルデバッグ

Linux カーネルにおける IPv6 の実装と改善
関谷 勇司, 宮澤 和紀
Linux における IPv6 環境の改善を目的とした USAGI Projectが発足して,約1年が経過しようとしている.本発表では,USAGI Project による改善の成果を,テスト結果ならびに実際のコードを例にあげ,解説する.さらに,USAGI Project と本家カーネルとの関係や連携について述べ,これからのUSAGI Project の展望を述べる。
[フルペーパー(PDF)]

Linux 用ソフトウエア・イベント・トレーサ
堀川 隆
プロセス切り換えや disk アクセスといったソフトウエア・イベントをトレースするイベント・トレーサを開発した。本稿では、そのトレーサの設計 (測定対象イベントの選定)、実装方式 (Linux kernel への組み込み方法)、適用例 (性能分析の一例) を述べる。設計はイベント・トレースを系統立てて行なうために提案したフレーム・ワークに基づいて行ない、実装は Linux kernel 内に hook を設置して必要なソフトウエア・イベントを検出する方式を採用した。性能分析例として、2.2 系の Linux kernel を使用するシステムにおいてファイル・システムを並列にアクセスした場合に発生する性能劣化現象を解明する。
[フルペーパー(PDF)]

Pentium 系 Linux の詳細動作を解析するスーパートレーサとアナライザ (STDB)
杉村 康, 伊土 誠一
オペレーティングシステム (OS) の性能の高精度な評価や動作解析には、OS の核 (カーネル) の命令もトレース出来るトレーサが必要である。本論文では、Linux のカーネルからアプリケーションプログラム (AP) 迄の全てのプログラム階層に於いて全命令トレースデータの収集と解析を行うスーパートレーサとアナライザ (STDB; a Super Tracer and an analyzer for analyzing Detailed Behavior of a Linux on a Pentium family processor) を提案する。このスーパートレーサは、全ての割込処理、システムコール処理、並びに AP 処理に於ける実行された命令、レジスタの内容等を /dev/hdb2 (IDE0 のスレーブ HD) に格納する。アナライザは、それらのデータを解析して、実行されたプログラムのコール/ コールドの関係を表すネスト図等を出力する。これらによって、8GB の IDE0-HD を増設するだけで、およそ 35 Mstep の OS の動作解析等が可能である。尚、当論文の大半は、2001 年 4 月に IEEE-ECBS2001 にて既に発表を完了している。当論文は、日本の Linux 関係者のために、特に IEEE Copyrights Manager より、その日本語版の再発表の許可を頂いた結果、実現したものである。 [(C) 2001 IEEE. Reprinted, with permission, from ECBS2001 (pp.298-305) (Washington D.C.)]
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プラットフォーム: カーネルハック

PS2 Linux での安全なユーザレベル排他制御の実現
町田 浩之, 篠原 孝夫
The Implementation of user level test-and-set on PS2 Linux In the multi-thread environment like Linux, a fast user-level mutual exclusion mechanism is strongly required. But MIPS chips designed for embedded and single processor, like the Emotion Engine, have no atomic test-and-set instruction. We implemented the fast user-level mutual exclusion without invoking system-call and its costs, on the PS2 Linux. This method utilizes the memory protection facility of Operating System, to detect preemption and nullify the operation. In this paper, we present the method and its evaluation.
[フルペーパー(PDF)]

Linux における多粒度 TLB のサポートと性能評価
清水尚彦
HPC において PC クラスマシンを利用することでコストパフォーマンスの良い計算が行えることが知られている。PC クラスマシンの欠点としてメモリ性能においてベクトル機に劣ることが上げられているが、ある分野のアプリケーションではこの原因の一つとして仮想記憶アクセスを高速化するためのバッファである TLB のマッピング能力不足が上げられる。本報告ではプロセッサに備えられる多粒度 TLB 機構をデマンドページ型仮想記憶を採用するオペレーティングシステムである Linux でサポートすることで HPC アプリケーションの性能が向上できることを示す。
[フルペーパー(PDF)]

カーネル2.5の世界
後藤 正徳
Linux カーネルは2001年1月、およそ2年ぶりに安定版カーネル2.4シリーズをリリースした。しかし、開発の勢いは止まることなく、さらに加速して続けられている。本セッションでは、次世代開発版カーネル2.5について、開発・実装が予定されている様々な個々のテクノロジから、カーネルの今後の展望と方向まで述べる。
[プレゼンテーション(html)| プレゼンテーション(PostScript)]

エンベデッド

Bluetoothネットワーキング
勝野 恭治
Bluetoothは低価格、低消費電力、小型という特徴を持つため、今後、様々なエンベデッド機器に組み込まれることが予想されている。エンベデッド機器はBluetoothによってネットワークに参加できるようになり、ネットワーク上のサーバーから様々なサービスを受けることができる。 本セッションでは、Bluetoothの現状とBluetoothネットワーキングを実現する技術について述べ、さらに我々が開発しているLinux上でBluetoothネットワーキングを実現するプロトコルスタック、BEEを紹介する。

Linux による 8bitCP/M マシンの開発
近 千秋
8080 命令互換プロセッサは、組み込みシステムコントローラとして幅広く用いられている。我々は、組み込みシステム開発環境を Linux 上で構築し、この環境の上で 8080 命令互換プロセッサを開発し、このプロセッサを用いた CP/M マシンを CPLD ボード上で実現した。Linux 上の開発環境の構築方法と、組み込みシステムの開発手法について述べる。
キーワード: HDL,8080,CP/M,組み込みシステム
[フルペーパー(PDF)]

GNU/Linux on SuperH プロジェクト
g新部 裕, 小島 一元, 杉岡 利信, 野澤 寿晴, 吉井 卓, 八重樫 剛史
本稿では、GNU/Linux on SuperH プロジェクトとそれに関わるフリーソフトウェアプロジェクトの以下のことがらについて、最新情報をもとにした開発者自身による詳細な解説を行うとともに、その未来を展望する。

    - 開発の進展
        - Linux カーネル
        - GNU toolchain と開発環境
    - プラットフォームサポートの現状
        - 各種評価基板
        - SEGA Dremacast
        - Windows CE ベースのハンドヘルド PC
    - ディストリビューション開発の努力
        - Debian GNU/Linux for SuperH
        - Dreamcast Linux Distribution
    - 自由のソフトウェアの挑戦: SuperH を越えて
        - DODES プロジェクト
        - eCos/RedBoot for DODES
	 
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エンタープライズ

Linux Virtual Server (LVS) を利用した PC クラスタにおけるノード管理
樋口一茂, 藤田昭人
Linux Virtual Server (以降 LVS) は市販製品の負荷分散装置と同等の機能を提供する Linux Kernel コードである。市販製品と比べても性能的に遜色がなく、低コストかつカスタマイズ可能な LVS は、Web サーバーの負荷分散などを目的として PC クラスタを構成する場合に大変便利である。しかし、LVS は負荷分散の基本機能のみを提供しており、PC クラスタの実際の運用を想定した周辺機能をサポートしていない。このため LVS を利用した PC クラスタを実際の運用に使用する場合、オペレータには LVS および Linux の操作に関する一定のスキルが期待される。特にクラスタを構成するノード数が拡大した場合、ノード管理は極めて繁雑な作業に伴う。本稿では LVS を利用した PC クラスタにおけるノード管理の実例として、現在開発中の大容量 Web サーバーシステムである「 LaMoN 」におけるノード管理方法を紹介する。LaMoN は PC クラスタを Web サーバーシステムとして活用することにより、システム動作時の処理能力の動的な拡大 (スケラビリティ)、冗長化による信頼性向上 (リダンダンシィ) を低コストで実現することをシステムである。
[フルペーパー(PDF) (architecture.gif, components.gif, lvs-cluster.gif)]

Linux-Windows ユーザアカウント統合のためのディレクトリサービスの性能評価
倉前 宏行, 島野 顕継, 木村 彰徳, 松本 政秀, 古野 良樹, 亀島 鉱二
近年、工学系学部においては、情報処理教育の内容が多岐にわたり講義演習における情報教育設備の実質的な使用時間も増大している。著者らはこれまで、学科独自の教育内容に柔軟に対応するための演習教室として、Windows NT と PC-UNIX のデュアルブート環境を提供する教育用 PC クラスタシステムを構築してきた [1].このシステムは、コンピュータリテラシ教育からプログラミング、数値実験などの講義・演習、さらには研究利用や授業時間外のオープン利用まで、のべ 1000 名もの学生がさまざまな授業演習等で利用する。よって、ユーザはコンピュータに初めて触れる者から、研究のためのシステムソフトウェア開発を行う者まで多様であり、そのスキルやその利用形態は多岐にわたる。システムには、このようなユーザにフレキシブルに対処するような管理・運用が求められる。インターネットへの接続が普及するにつれ、フレキシビリティとセキュリティを両立させる要求も発生してきた。こうした教育用システムの運用管理については、セキュリティの確保やシステム管理の省力化を目的とした多くの研究成果が報告されている [4].本システムにおいても、当初、UNIX サーバに Samba [10] を導入し、Windows のユーザ情報を NIS (Network Information Service) と連携させることにより、Windows と UNIX の 2 つの OS (Operating System) 環境においてユーザアカウントを一元化した。さらに、大学共通施設の情報センターで一括管理されている学生ユーザ情報を参照することにより、本システムではユーザアカウント管理の自動化を実現した。しかし、NIS のユーザ情報は UNIX パスワードが暗号化されているものの辞書アタックなどに対し十分な強さを持っているとは言いがたく、また Samba とのパスワード連携を行なうために構築した Wrapper もセキュリティホールとなり得る危険性を否定できない。このように、UNIX と Windows を統合してフレキシビリティとセキュリティを両立させることは容易ではない。そこで、OS が混在したシステムにおいて、ユーザアカウントを完全に統合するとともに十分なセキュリティレベルを保つため、ディレクトリサービス NDS (Novell Directory Services) を導入した [3].これにより情報センターが全学生に発行する計算機利用のアカウント 1 つで大学内のシステムをシームレスに利用できるようにした。しかし NDS は商用ソフトウェアソリューションであり、ソースコードなどは公開されていない。したがって、ユーザにとってはシステムの実体をつかむことはもちろん、その性能を測定することは容易ではない。そこで本稿では、本システムの管理者、すなわち NDS ユーザの立場において、ユーザアカウント情報のデータフローに基づいたシステムの性能測定方法を開発し、実際に測定を行なった。この結果からディレクトリサービスの性能評価について述べる。
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WebServer における Linux2.4 のスケーラビリティ -ボトルネック解析と改善-
平井 聡, 久門耕一
Linux2.2 カーネルから 2.4 カーネルへの機能強化で、エンタープライズ分野における最大の特徴はマルチプロセッサ機における性能向上である。本論文では、8way の PC サーバ機において、Web サーバアプリケーション (Apache) を使用した場合に焦点をあて、以下の分析を行っている。

  • カーネル 2.2 および 2.4 は 8way サーバにおいてどの程度スケーラビリティがあるか。
  • カーネル 2.4 は 2.2 に比べてどの程度パフォーマンスが向上したか。
  • カーネル 2.4 は高負荷時 (多プロセス動作時) にどのような問題が発生するか。
  • スケーラビリティ改善オープンプロジェクト [1]の修正パッチはどの程度効果があるか。

Web サーバへの負荷生成には WebBench 3.0 [2] を使用した。また分析にあたっては、カーネルにプロファイル機能を付加し、OS 関数レベルのボトルネック解析を行った。その結果、カーネル 2.4 は少なくとも 8CPU までスケーラブルであること、カーネル 2.4 はピーク性能でカーネル 2.2 の 2.8 倍の性能が出ること、カーネル 2.4 でも高負荷時 (多プロセス動作時) にスケジューラのオーバヘッドにより性能劣化が発生することそしてスケーラビリティ改善オープンプロジェクトの修正パッチ適用により高負荷時でも性能劣化を抑えられることが分かった。
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ソーシャル

中学校技術科およびその教員養成課程と Linux
山本 広志

中学校における情報教育は始まったばかりで手探りの状態だが、大きな2つの問題を抱えている。第一には指導する教員の専門的能力が乏しく表面的な操作しか教えられないこと。第二にはブラックボックスで教材として不適切なマイクロソフトがほぼ100%を占めていること。困ったことにほとんどの教育関係者は問題の存在すら認識していないし、情報科学や計算機の専門家は学校教育に無関心であることが多い。

中学校教員養成課程を持つ山形大学教育学部では、この問題に対応するため技術科の教員養成の授業に情報科学の基礎的な講義とLinuxの実習を導入した。これから教員となる学生に専門的能力を身に付けてもらうことと、マイクロソフト以外に優れた選択肢があることを実感してもらうことを目的としている。

フリーソフトウェアで目指すもの
g新部 裕
本論文では、フリーソフトウェアの運動の原点を確認し、その視点から今後の技術的なターゲットを明らかにする。
21 世紀に入り、Linux 2.4 のリリース、GNOME 1.4 のリリース、および GCC 3.0 のリリースと、フリーソフトウェアの開発には大きな進展が見られる。しかしながら、後進国の日本ではフリーソフトウェアは、その利用に関する動きは活発だが、技術的な競争力はとても低く、開発力では大きく水を開けられている。
この遅れの主要な要因は、フリーソフトウェアを単に (安価に) 「利用する」ものとする捉え方である。フリーソフトウェアとそれが形成するコミュニティは、動的に変化し成長するものであり、そのメリットは、その場の中に「参加する」、あるいは「貢献する」ことによって享受できるものなのだ。
外から傍観者として、単に技術的な差異を問題とする視点では、フリーソフトウェアの運動は理解できず、その方向性を見失う。そこで、本論文では、フリーソフトウェアとは何かを再確認し、今後の展望を運動の視点から述べる。
特に、日本において、個人、組織、国のプロジェクト等、さまざまな立場でフリーソフトウェアの運動を続けてきた経験から、日本のソフトウェア開発の社会的問題点を述べる。また、国際協調体制に日本から参加してきた経験について述べ、なぜ日本からの「貢献」は表に出てこないのか、フリーソフトウェアの開発における衝突と、リーダーシップの必要性について述べる。
改革の運動であるフリーソフトウェアは、ソフトウェアの「自由」を標榜し、その継続的活動により、開発者と利用者のコミュニティを形成するに至った。経済モデルの欠如から、その存続は当初から疑問視されてきたが、インターネットというコミュニケーションの基盤と、ハッカーの熱意に支えられ、サーバの運用をはじめとする現場での実際の利用に供することにより、発展し大きくなってきた。
フリーソフトウェアは、まず開発環境から始まった。GNU Emacs, GDB, GCC がもっとも古いフリーソフトウェアであることは、その自由がいかに重要かを示すものである。そして、この開発環境は、今では、もっとも広範囲に適用される何者にも変えがたい技術的集大成となっている。具体的には、GCC は 8-bit の単一組み込みプロセッサから、最新の 64-bit プロセッサまでをサポートし、いろいろな OS の上で動くことがサポートされている。
フリーソフトウェアは、ネットワーク環境で大きく成長した。Linux というカーネルの実装を得て、OS のすべてを構成するソフトウェアを自由のソフトウェアとすることが可能となり、その利用は大きく広がった。ネットワークの広がりとともに、Apache (その名がフリーソフトウェアの運動を象徴する) は、多くのサイトで利用されるようになった。
そして、フリーソフトウェアの運動は、すべてのソフトウェアを自由のソフトウェアとする方向に展開している。デスクトップ環境 GNOME の開発は、一般に利用されるデスクトップ環境としてフリーソフトウェアを利用することを目標にしている。そしてすさまじまでに速い開発は、既存の UNIX ベンダーをして、これまでのプロプライエタリのソフトウェアを捨て、フリーソフトウェアを採用させるまでに広がった。
また、フリーソフトウェアの運動は、すべてのハードウェアに自由のソフトウェアを稼働させようとする方向に展開している。Linux 2.4 に統合された組み込み分野へのプロセッサのサポート、メインフレームのサポート、USB のサポートおよび PC カードのサポートは、フリーソフトウェアが稼働するハードウェアをより広範囲のものとした。90 年代前半は、適用できるハードウェアが少ないことがフリーソフトウェアの問題であったが、今では、そこにハードウェアがあれば、それはハッカーの娯楽の対象となり、適用分野はどんどん広がっている。特に、組み込み分野での展開では、開発環境を含めた機器のすべての環境が自由のソフトウェアで構成されるという、フリーソフトウェアの「完全なる」形が可能となった。

まとめとして、フリーソフトウェアは、アカデミズムを越えるもの、企業社会を越えるものであることを述べ、独立の極としてそれぞれを補完しうることを示す。そして、論文、公的資金、および認定試験など、これまでの古い体制に取り込まれてはいけないことを事例とともに述べる。そして、模倣と自己否定と破壊こそが創造の原動力であることがこの論文自体で示される。
[フルペーパー(PDF)]

オープンソース・インパクト 〜オープンソースはソフトウェア世界をどう変えるのか
武藤 健志
GNU/Linux の興隆とともに「オープンソース」という言葉が一般の人々のあいだに聞かれるようになってから久しいが、一般マスメディアの報道にも見受けられるように、未だにオープンソースの真の姿、たとえばその優れた有用性、屋台骨となる精神、経済社会との柔軟な共生性についての理解が正しく広がっているとは言い難い。
また、これまで一顧だにせず無視を決め込んでいたはずの Microsoft がここにきて、彼らを脅かすまでに台頭してきた Linux などのオープンソースソフトウェアに対し、FUD (Fear, Uncertainly, Doubt) も多く含んだ批判攻勢をかけてきており、どちらが正しいのか人々のあいだに混乱を引き起こしている。
本論文では、Linux をはじめとするオープンソース全体を概観し、その本質的な哲学、ビジネスとの関係、FUD ではない真のメリットとデメリットを中心に考察する。
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デスクトップ: オフィスソフトウェア

Linux GIMP のプラグイン:SIC で目指す芸術と科学の融合 -数行のプログラムの変更がもたらす個性的な CG 表現の世界-
笠尾 敦司
芸術と科学の融合が色々な局面で望まれており、その結果、芸術家と科学者が協力する機会は日増しに増えている。もちろん友好的な協力関係は是非とも必要なものである。しかし、真の融合は一人の人間の二つの側面として現れるべきものであると筆者らは考えている。芸術と科学の境を感じずに自由に活動できる人材こそ今もっとも望まれている人材だからである。また、人間は本来的に芸術的でもあり科学的でもあるはずのものだからでもある。ものに感じてその感動を表現したいという気持ち、そして、世界に満ちている不思議や謎を解明したいという気持ち、誰しもが子どもの時には持っていたはずである。しかし、全てにおいて専門化していくこの世の中にあって、この二つを大人になっても併せ持っていることは大変難しいことである。筆者は、上に述べたような意味での芸術と科学の融合を目指しており、そして、これをなしえる土壌として Linux の文化は適切なものであると考えている。それは Linux があらゆる意味でオープンを基本姿勢にしているからである。子どもから大人になる過程のどこかの時点で何かしらの壁を自ら築くことで、科学者または芸術家になったはずである。従って、その壁を壊しオープンにすることが大切で、このような力を Linux は潜在的に持っているはずである。本論文では、芸術と科学の融合した表現手段であるアルゴリズミックアートを紹介し、Linux の GIMP のプラグインとして、アルゴリズミックアートを制作するために開発された SIC (Synergistic Image Creator) について述べる。そして、SIC を用いたオープン CG の活動についても最後に紹介する。
[フルペーパー(PDF)]

StarOffice/OpenOffice globalization framework
樋浦秀樹樋口貴章
This paper reports current status of globalizaed, Unicode-enabled version of StarOffice/OpenOffice, and discuss its internal architecture how globalization concept is introduced to the StarOffice archtecture by advancing its platform neutral, multi-platform infrastructure. This paper also covers the issues around locale specific behavior support and the common issues with Unicode.
[プレゼンテーション(StarSuiteのプレゼンテーション形式)]

New Printing framework
木戸彰夫 / 樋浦秀樹

This paper describes the proposed printing framework for UNIX and Linux systems which is in progress at the Li18nux printing subgroup. This new printing framework being developed is intended to resolve the issues of the traditional UNIX printing rather than getting around of it, although it does not address any spooling systems. One of the key components of new printing framework is the layout service library called Standard Type service Library (STL), and this paper explains some of the key concept and its APIs.
[プレゼンテーション(PDF)]

デスクトップ: デスクトップ環境

GNOME
田郷 明
多くのディストリビューションで標準デスクトップ環境として採用され多くの人々に支持されている GNOME についての現状と今後の展望についての概略や、国際化に対する現状と問題点、それらの解決方法について実例に基づいた解説を行う。
[プレゼンテーション(html)]

KDE
朝木 卓見
GNOME とならんで人気の高いデスクトップ環境として KDE (K Desktop Environment) がある。 ここでは 8 月にリリースされたばかりの最新の安定版である KDE-2.2 の主な機能やアプリケションについて述べる。 あわせて、これから開発の始まる KDE-3.0 について、その概略などを述べる。
[配布資料(PDF)]

携帯機器向け GUI 環境「式神」の実装
大谷 浩司
我々は、携帯機器向けの GUI 環境「式神」を開発している。式神は、ハンドヘルド PC や PDA で Linux を利用するユーザに、GUI 環境を提供するもので、以下の特徴を持つ。

  1. 操作の手間を省く単純な「デスクトップ」
  2. 手書き文字認識システム「布目」
  3. 知的情報処理を補助する「人工知能機能」

本論文では、まず、全体のプログラムの概略を述べる。次に、「デスクトップ」と「布目」の実装について述べ、「布目」については、認識のアルゴリズムとその評価も行なう。
[フルペーパー(PDF)]

デスクトップ: その他

Why Haskell matters: Emacs in Haskell
イェンスピーターセン
This talk is in two parts. In the first part the features of the functional programming language Haskell are described. In the second part a new project to write a "new Emacs" in Haskell is explained. [フルペーパー(PDF)]

汎用動画像処理ソフトウェアライブラリ - MAlib -
飯尾 淳, 谷田部智之, 比屋根一雄
PC の高性能化、デジタルビデオやデジタルカメラの普及、およびそれらの機器と PC とのインターフェースの進化に伴い、画像情報の PC を用いた加工や蓄積は現在とても身近な技術となりつつある。そのような背景のもと、動画像処理を行なうソフトウェアの開発は、ニーズの高い分野として注目を浴びている。しかし現在のところ、手軽に利用できる汎用的なソフトウェアライブラリが存在していない。そこで、それらの動画像処理アプリケーション開発の促進を目的として、汎用に利用することができる動画像処理ソフトウェアライブラリを構築し、オープンソースとして公開した。
[フルペーパー(PDF)| ハンドアウト(PDF)]

ttyrec: 端末を録画再生するツール
高林哲, 鵜飼文敏, 大和正武
UNIX の世界では伝統的に文字ベースの端末および端末エミュレータ (以下、端末に統一) が広く使われている。古くは VT100 をはじめとする専用の端末、グラフィカルなウィンドウシステムが普及した現在では xterm や kterm をはじめとする端末など、時代を問わず端末は UNIX には欠かせない存在となっている。UNIX が得意とするコマンドライン指向のテキスト処理との相性のよさが、これほど端末が広く使われている理由といえる。本論文では端末を録画再生するツール ttyrec を紹介し、その応用および関連するソフトウェアについて述べる。
[フルペーパー(PDF)]

セキュリティ

Linuxホスト運用の課題と展望
荒木 靖宏
Linuxホストの典型的な利用法は、ネットワークに接続しサービスを提供する形である。これは規模の問題を除けば運用者側がシステムの把握を行い運用を行う点で管理は容易である。一方で一般にワークステーションと呼ばれる多種多様な目的で使われるシステムについては、格段の注意を払うことなしに構築されるのが通常である。また前者は外乱などの些細なきっかけにより混乱や矛盾を孕む危険がある。これらLinuxホストの運用における課題とその解決ないし解決の糸口を展望する。
なおネットワークからの攻撃に対する課題については本題としない。
[プレゼンテーション(PDF)]

セキュリティインシデントの現状とネットワーク環境におけるセキュリティ保全
すずきひろのぶ
セキュリティインシデントを定量的に分析し現状を報告する。その現状を踏まえ、GNU/Linuxサーバ環境を中心としたネットワーク環境におけるセキュリティ保全を戦略的な視点から考える。
[配布資料(PDF)| プレゼンテーション(PowerPoint)]